アマチュア無線家JH0ILLのつぶやき

ある日、突然、アマチュア無線を再び、やってみようと思い付き、十数年ぶりに再開した無線局のつぶやき。

IC-7610 vs IC-7300☓2

IC-7610を購入した。正直、定価が¥368,000もするトランシーバであり、なかなか手が出ない状況であった。私の考えでは、性能が殆ど変わらないIC-7300を1台、ないし2台購入するお得感があった。例えば、IC-7300を2台購入、すなわち、 ¥139,800☓2台=¥279,600の方が安いし、利便性に富んでいるという感じである。それは他のIC-7610オーナーからも言われ、オーナーとなった今ではそれを認めるのも悔しいので、それでもIC-7610を購入するメリットがあるのか??と考えてみた。ただし、私はIC-7300のオーナーではないので、勝手な考え方がそこにあることをお許しいただきたい。
IC-7300☓2台と比べて、IC-7610が優位にあるものは何かを考えてみる。

  • デジセルが付いている
  • APFがCW/RTTY用で付いている
  • ATUの記憶が可能
  • CW スピード・ピッチコントロールツマミがある。
  • フルブレークイン時の音はとても静か
  • IQ出力機能

そんな程度である。一方、IC-7300が2台あれば、同時に2波出力できるので、アンテナシステムさえ2系統あり、且つ、周波数帯が異なれば、いま流行りのFT8を運用しながら、別バンドでラグチューといった芸当をこなすことができる。それならば、何故、IC-7610なのか?、IC-7851のようなフラグシップ機ではないので、少なくとも実用でメリットを出して、納得したいものである。
IC-7610はHF入門機ではなく、ある程度、HFを慣れ親しんだ方向けであると思う。それらの機能は、HFという特徴あるバンドでの運用形態を考えて作り出されたと考えたい。
まず、HFでしばらく運用していると、誰もがDX交信をしたいと考える。それも、デジタルではなく、実際に自らの耳を信じて、遠く海外の弱い信号をノイズや混信の中からピックアップすることを欲するようになると思う。また、珍しい局との交信では、多くの局が群がり、通常はスプリット運用(送信受信周波数をずらして、混信を減らしての交信)となる。ここでいかに他局を出し抜くかが決めてとなる。DXerと呼ばれている方々は設備や運用面で他局を出し抜くことに躍起である。一方、HFでのもう一つの楽しみ方に、コンテストがある。コンテストでは、沢山の局と交信するだけでなく、マルチプライヤと呼ばれる各コンテストで特徴付けられた特典を多く得ることが、勝敗の鍵を握る。それには、バンドを網羅して、足りないマルチプライヤの局を探すことが必要になる。
では、これらのHFの実践機器としてIC-7610はどのような機能を備えているかを考えれば、きっと、IC-7300でなく、IC-7610が欲しくなるだろう。
まず、以前も紹介したデジセルである。この機能は、プリセレクタでバンドパスフィルタで制限したエリアの信号を更に目的の周波数をピークにフィルタリングし、過大な信号によるオーバーフローの発生を防止するものだ。7MHzや3.5MHzでの運用をしていると、夕方から朝にかけて、近隣の海外放送局が非常に強力な信号で入ってくる。特にアンテナをその方向に向けると、間髪入れずにOVF(オーバーフロー)インジケータが点灯し、バンド内がザワザワし始める。そのようなとき、IC-7300での対応は、Youtubeなどで確認すると、殆どがRFゲインを絞るという行為か、ATTを入れるということだ。しかし、この時間帯に相手をしたい局は、微弱なDX局であり、ATTなどによれば、その微弱な信号も結果的に弱められてしまう。OVFをつけずに、DX信号を弱めずに聞く手段のひとつがデジセルを用いることである。通常、OVFが生じているところで、デジセルを入れることでOVFが解消されなかったことは一度もない。スーパーローカル局が出てきても、近隣の周波数でなければ大丈夫のようだ。すなわち、ローバンドDXでは、IC-7300を上回る能力が期待できる。
もう一つの特徴は、デュアルワッチである。これは、IC-7300が2台あれば、その方がいいと考えやすいが、目的によっては、IC-7610がIC-7300の2台あるよりも使いやすいと思う。それは、珍局との交信時に必須なスプリット運用のときだ。この場合、珍局の周波数で受信し、送信は少し離れたところで呼ぶことになる。スプリット運用で重要なことは、珍局が恐らく聞くであろう周波数を先回りすること、そして、他局とつぶしあいにならないことである。そして、珍局の信号を聞きながら行わなければならない。今までIC-7000では、スプリット運用とすると、通常は珍局の周波数をワッチし、送信周波数を選ぶときは、XFCボタンを押しながら、送信周波数を聞いて、空き周波数で呼ぶということをしてきた。IC-7610では、同じアンテナシステムを使って、同時に送信周波数を聞くことが可能で、且つ、そのエリアをスペクトラムスコープで表示できるため、珍局にピックアップしてもらった局がどの周波数にいて、その付近の空いている周波数を、珍局の信号を聞きながら、速やかに探すことが出来るようになった。IC-7300を2台で実現するには、アンテナシステムを2つ備え、かつ、送信側の装置が送信する時間帯は、受信側の装置はフロントエンドを守るため、完全に機能停止する必要が出てくる。こんな芸当は、IC-7610を1台で任せた方が絶対にいい。実は、これだけでなく、IC-7610にはIQ出力機能も備わっていて、PCにUSB3を介して接続すれば、HDSDRソフト、そして、CW Skimmerがあれば、CWでのパイルアップの際は、どこの周波数でピックアップされたかが一目瞭然なのである。
CW運用に対しては、便利な機能が付いている。私は、普段のDX交信の9割がCWを用いているので、CWをサポートする機能はとても重要である。特に、気に入っているのはAPF(オーディオピークフィルタ)機能。いままで、TS-480HXで運用していたとき、S4以下の信号は、ノイズに埋もれてしまい、受信がとても大変であった。NR2という機能を働かすと、ピロピロという音が強くなり、了解度はあまり向上しなかった。IC-7610では、APFを働かすと、S1〜2程度の厳しい信号もほぼ完全に理解できるようになった。いままで1kWでCQを出したときに呼ばれてくる100W以下の局の弱いDX信号が取れるようになった。これは良いアンテナを手に入れたことと等しいことになる。また、オーディオピッチコントロールつまみ、CW速度つまみがすぐに操作出来る点もいい。CWの場合は、相手の速度に合わせるのがエチケットであり、速度の切り替えはつまみがいい。また、ピッチコントロールも、その時々で聞きやすい音調が変わるのでとても便利だ。もうひとつ気に入っているのは、フルブレークインのリレー音が無いこと。リレー音がうるさいと、フルブレークインなんて設定したくない。
コンテストでも、IC-7610は便利である。コンテストには、コンテストログを使うことが今や常識の時代、私はCTESTWINを使い、且つ、CATによるリグコントロールを駆使している。IC-7610によるデュアルワッチで周波数帯の同時監視をしながらの交信が出来るようになった。ただし、現時点ではベアフットでの対応しかできない(リニアアンプも連動できないとダメ・・・)。更に、IQ信号を用いたHDSDR+CW Skimmerの連携である。この場合はTelnetを介して、CTESTWINに接続、速やかに未交信局の周波数に移動し交信することが出来るようになった。先日のARRL Internationalで試してみた。こんな芸当ができるのだ。
まだ、IC-7610には使っていない機能が残されている。ひとつは、LW帯のトランスバータの取り付けができる機能をもつ。これは免許条件が難しく困難。また、リモート機能が備わっていて、サーバーとしての動作ができる。ローバンドで送信・受信のアンテナを変えることができるように受信アンテナポートが備わっており、且つ、トラッキング機能まである云々。ここまでなると、もうIC-7300が2台あってもできないことばかりである。


まとめると、以下の通りなのかもしれない。


  • 国内SSB交信が主。 → IC-7300 1台
  • FT8とSSBを別のバンドで同時に交信したい。 → IC-7300 2台
  • CW交信が比較的多い → IC-7610もいいけど、IC-7300でも問題ない
  • DX珍局を呼ぶケースが多い → IC-7610がお勧め
  • 夕方、朝方のローバンドDX交信 → IC-7610がお勧め
  • コンテストで入賞を狙いたい → IC-7610がお勧め
  • リモート機能を使いたい → IC-7610がお勧め?

やはり、IC-7300でHFの楽しみを知ってから、もっと深みを体験するための機種としてIC-7610があるって感じだ。ただ、IC-7700やIC-7851といった上位機種との位置関係は不明である。


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